この度、KATSUYA SUSUKI GALLERYでは、2026年5月2日より、スペイン・マドリードのアートラボLEA (Lab of Experimental Art)とのコラボレーション企画として、スペイン人アーティストのマルタ・アダリド(Marta Adalid)による日本初個展「肉の花(Flor de Carne)」を開催いたします。
LEAは、レジデンスや展覧会、ワークショップなどを通して世界各地のアーティストの活動を支援する実験的なプラットフォームであり、これまでに弊廊からは岩崎奏波、蔡云逸、福濱美志保の3名が同ラボのレジデンスプログラムに参加し、マドリードにて滞在制作を行ってきました。本展はその協働関係の延長線上に位置づけられるものであり、LEAのキュレーターであるJorge de la Cruzの企画により実現したものです。
マルタ・アダリドの制作において、花は特異な存在として立ち現れます。それは自身や周囲を描く瞬間において自発的に生起するものであり、明確な意図というよりも、偶然の出会いとして現れるものです。作家はその偶然性に火を与えるようにして引き受け、花弁と皮膚のあいだにある混交をいっそう際立たせていきます。
哲学者ジル・ドゥルーズが示唆したように、身体は形態へと生成変化し、環境と溶け合いながら、自然と人間の境界を曖昧にしていきます。この考えはアダリドの作品の中核をなしており、精神的かつ概念的な側面においてのみならず、より肉体的な次元においても顕在化しています。断片化された線、肉の気配を帯びた色彩の滲み、支持体を満たし、あるいは溢れ出すような侵入的構成は、観る者に直接的な感覚の衝撃をもたらします。
花はここで身体となります——それは作家自身の身体であることもあれば、他者の身体であることもある。しかし同時に、それは決して花であることをやめない。すなわち、ありふれていながらも儚く消えゆく存在です。この明確な形態と喚起的な象徴とのあいだの揺らぎは、日本の「浮世(ukiyo)」という概念へと接続されます。そこには無常や欲望、さらには生理的な嫌悪すらも含み込まれており、バロックにおけるヴァニタスとも響き合います。
本展では、花という象徴を通じて日本とスペインの文化のあいだにひとつの響応関係が見出されます。それは日本の鮮やかな山々の風景とアンダルシアの中庭、ミニマルな生け花と地中海的な植物の過剰なまでの豊穣といった、相反する要素の双方に触発されたものです。
マルタ・アダリドは本展において、花を単に鑑賞される対象としてではなく、内側から生きられるものとして編み上げます。各作品はひとつの生のあり方や気質、身体を示唆し、やがて花と人は互いに溶け合い、区別されえないものへと移行していきます。
そんなマルタ・アダリドによる日本での初となる個展「肉の花(Flor de Carne)」、この機会にどうぞご高覧下さい。
Marta Adalid | マルタ・アダリド
Flor de Carne | 肉の花
会期:2026年5月2日(土)〜5月24日(日)
休廊:月曜日・火曜日
※5/4(祝・月)、5/5(祝・火) OPEN
営業時間:12:00〜19:00
[Opening Reception]
2026.5.2 (Sat) 17:00 – 19:00
[Talk Event : Marta Adalid✕荻野 夕奈 ]
2026.5.9 (Sat) 17:00~
A project with LEA – Lab of Experimental Art
〒152-0022 東京都目黒区柿の木坂1−32−17
TEL 03-5726-9985
Mail info@katsuya-susuki-gallery.com
HP https://katsuya-susuki-gallery.com
東急東横線「都立大学駅」より徒歩5分
With the support of: Embassy of Spain in Tokyo
[Talk Event]
Marta Adalid ✕ 荻野 夕奈
Photo by Jimmy Cohrssen
[Talk Event概要]
日時:2026年5月9日(土) 17:00〜
料金:無料
お席は10名様分ご用意致しますが、参加者多数の場合は立見になりますのでご了承下さい。
花は、美術史において東西を問わず繰り返し用いられてきたモチーフです。その役割は単なる装飾性にとどまらず、感情の状態、生物的な循環、社会構造、政治、さらには生と死に対する態度を象徴するものとして機能してきました。とりわけ重要なのは、花が人間の身体のメタファーとして扱われてきた点にあります。そこには、脆弱性、内在する性的ニュアンス、痛み、環境への曝露、そして不可避的に訪れる腐敗への運命が重ねられています。
古典美術において、花は若さの象徴として現れ、たとえばヨーロッパのルネサンス絵画では、それぞれの花の種類が道徳的・宗教的、あるいはエロティックな意味を担っていました。肖像画において花は、徳を強調したり警告を示唆したりする役割を果たし、多くの場合、身体そのものの代替として機能していました。すなわち、肉体を直接描くことなく、それを暗示する手段として用いられていたのです。さらにバロック期には、とりわけヴァニタスに代表される静物画のジャンルにおいて、この解釈はより存在論的な次元へと展開し、花は身体の直接的な投影として扱われるに至りました。
一方、日本美術において花と身体の関係は異なる様相を示します。生け花や水墨画において、花は静的な対象としてではなく、時間や所作、環境との均衡を体現するものとして表されます。それを観る、あるいは生ける身体もまた、そのシステムの一部であり、主体と客体のあいだに明確な分断は存在しません。このことにより、花は身体の延長として、また生に対する態度の表れとして、より統合的に読み取られます——抑制され、注意深く、絶えず変化に適応する存在として。
現代美術において花は、エコロジー、政治、アイデンティティといった多様な観点から再解釈されてきました。しかしながら、身体——すなわち脆く、親密で、変容し続けるもの——を指し示す力は、いまなお有効であり続けています。この意味において花は、単なる形態ではなく、環境との関係性の中で露出し、変化にさらされ、決して中立ではありえない「態度」としての身体を思考するための、高い象徴的強度をもつ造形言語であるといえるでしょう。
Marta Adalidは本展において、花と人間が相互に絡み合い、やがて判別が困難になるまでのプロセスを提示します。それは詩的な比喩としてではなく、より直接的な関係として立ち現れます。すなわち、身体が花となり、花が身体のように現れる状態であり、ときに引き裂かれ、ときに開花する存在として描かれます。
Marta Adalidと荻野夕奈によるトークでは、植物的なフォルムがいかにして共同体の間接的なポートレートとして機能し得るのか、さらには異なる文化の肖像としてどのように作用するのかについて、その類似性と差異の双方に着目しながら考察を深めます。
Jorge de la Cruz
Marta Adalid / マルタ・アダリド
マドリードを拠点に活動する若手ビジュアルアーティスト。Complutense University of Madrid で美術学位を取得後、フィレンツェおよび Barcelona Academy of Artで研鑽を積む。Ricardo Bofill Taller de Arquitectura や Astet Studio といったスタジオとのコラボレーションに加え、映画プロジェクトにも参画。LEA、Galería Fourquet 31、Cruz Bajo での個展をはじめ、マドリード、リスボン、イギリス、バルセロナなど各地のグループ展で作品を発表している。活動の軸はドローイングとペインティング。
https://martaadalid.com/
https://www.instagram.com/marta_adalid/
Education
2016–2018 · Intensive Program in Traditional Drawing and Painting, Barcelona Academy of Art
2015–2016 · Fine Arts, Accademia di Belle Arti di Firenze (Erasmus Scholarship)
2012–2016 · Bachelor’s Degree in Fine Arts, Complutense University of Madrid
Solo Exhibitions
2024 · Residencia Full Time, LEA, Madrid
2023 · The Inhabited Body, Espacio Cruz Bajo, Madrid
2021 · The Sea and the Self, Desemparat Studio, Barcelona
Group Exhibition
2025 · Cortex Frontal, Galeria Appleton, Lisbon
2025 · Group Exhibition, Elsa Marj Studio, Madrid
2025 · Zoara’s Auction, Madrid
2023 · Lab Ola, Galería Ola, Barcelona
2023 · Viaje, Galería Ola, Barcelona
2023 · Olas Rugientes, Galería Reku Art, Madrid
2019 · Misnoma Art Festival, Mutuo, Barcelona
Residencies and Awards
2025–present · 12-month artist residency at LEA with Patronage Grant, Madrid
2024 · Artist residency at LEA, Madrid
2022 · INJUVE Grant for *Habitar el cuerpo colectivo*, Spain
Collaborations
2025–present · Represented by Artiq, international art agency, London, UK
2025 · Collaboration with Astet Studio —artwork for Hotel La Florida, Barcelona
2024 · Paintings created for Vértigo Films production, *Verano en Diciembre*
2023 · Lead artist and artistic advisor for the feature film *La Mitad de Ana*, Madrid
2023 · Collaboration with Astet Studio —artwork for Hotel Mas d’en Bruno, Tarragona
2022 · Collaboration with Astet Studio —artwork for Hotel Aethos Ericeira(Pedra Silva Arquitectos), Lisbon
荻野 ⼣奈 / Yuna Ogino
Photo by Jimmy Cohrssen
1982年東京都⽣まれ。
2007年東京芸術⼤学⼤学院美術研究科修了。
⾃⼰・⼥性性、⽣命、関係、愛などをテーマに、花や⾝体をモチーフにした半抽象画を描く。
2025年「Interweaving Presence」(京都蔦屋書店エキシビションスペース/京都)2025年「Dimwarmth」(THE PLUG / 東京)2024年「Magnolia denudata」(KATSUYA SUSUKI GALLERY/ 東京)、2024年「Multilayered emotions」(⽇本橋三越コンテンポラリーギャラリー/東京)など、個展多数。2024年企画展「ジパング平成を駆け抜けた現代アーティストたち」(ひろしま美術館/佐賀県⽴美術館)に参加。
https://www.yuna-ogino.com
https://www.instagram.com/yuna_ogino_/